脂肪組織のエクササイズバイオロジー
1冊まるごと脂肪組織と運動の話
  • 編集:
    井澤 鉄也(同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科)
    駒林 隆夫(前武蔵丘短期大学健康栄養学科)
  • 定価:
    3,080円(税込)
  • 頁:
    190ページ
  • 判型:
    B5判
  • 発行年月:
    2011年9月
  • ISBN:
    978-4-905168-09-6

内容

 脂肪細胞は受容体のデパートで,多岐にわたる細胞内情報伝達経路をもつことが明らかになった。
 また,レプチンが白色脂肪細胞で産生・放出されることが見出されて以来,脂肪細胞は新しい顔をみせることになった。すなわち,白色脂肪細胞は,アディポカインと総称される多くの生理活性物質を“分泌”する分泌組織として人々の注目を浴びるようになった。
 このように,脂肪組織(細胞)はエネルギー代謝の調節,細胞内情報伝達経路,生活習慣病などを解明できる組織として研究が推移し,実に多くの知見が蓄積されている。
 スポーツ科学の分野においても,パフォーマンスや細胞の生理応答が増強する仕組み,生活習慣病の改善などと脂肪組織とのかかわりについて精力的に研究がなされ,近年はとりわけ生化学・分子生物学的な研究が著しく進展している。
 本書では,これまでに集められた脂肪組織と運動とのかかわりに関する事実を整理し,こうした事実を進展の著しいバイオロジカルな観点から紹介しようとするものである。
 本書のタイトルが「脂肪組織のエクササイズバイオロジー」となっているのも現在のスポーツ科学の新しい側面を反映した結果である。なお,初心者の方でも容易に理解できるよう,用語解説,略語集を充実させた。

目次

第1章 脂肪組織のモルフォロジーと運動
 1.脂肪組織の発生と分化シグナル
  1)脂肪細胞の発生と分化
  2)脂肪前駆細胞から白色脂肪細胞への分化
  3)脂肪前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化
  4)分化シグナルとエネルギー代謝
  5)分化シグナルに及ぼす運動の影響
 2.白色脂肪組織と褐色脂肪組織の形態と機能
  1)白色脂肪組織の形態と機能
  2)褐色脂肪細胞の形態と機能
 3.白色脂肪組織の広範な分布と運動の影響
  1)白色脂肪組織の分布と発生遺伝子
  2)運動トレーニングと体脂肪分布の変化
 4.脂肪細胞の大きさと生理機能
 5.脂肪細胞の肥大型肥満と増殖型肥満
 6.脂肪細胞の分化と組織リモデリング
 7.脂肪組織の肥大と血管新生
  1)脂肪組織の血管新生
  2)脂肪組織の血管新生と運動トレーニング

第2章 “エネルギースタンド”としての脂肪組織
 1.白色脂肪組織のエネルギー貯蔵方法
  1)SCDを介するTGの合成経路
  2)DGATに律速されるグリセロール3-リン酸からのTG合成経路
  3)食事由来TGを介する白色脂肪細胞のTG合成経路
  4)脂肪合成酵素としてのSCDとDGATの機能
  5)運動による白色脂肪細胞におけるTG合成経路の修飾作用
  6)運動による骨格筋のTG合成経路の修飾作用
 2.白色脂肪細胞に脂肪酸とグルコースを運ぶ輸送担体
  1)FATPの役割
  2)FABPpmとFAT/CD36の役割
  3)脂肪細胞における脂肪酸の輸送とFATP,FABPpm,FAT/CD36の役割
  4)白色脂肪細胞におけるグルコース輸送担体の役割
 3.摂食制限(ダイエット)による脂肪組織の変化
  1)絶食・復食サイクルによる脂肪組織の反応
  2)絶食・復食サイクルによる摂取エネルギーの調節にかかわる脂肪合成機構
  3)脂肪合成酵素を調節するSREBPと絶食・復食による変化
  4)運動はリバウンドの抑制に有効か
 4.エネルギー供給源としての脂肪組織:脂肪分解反応を引き起こす細胞内カスケード
  1)エネルギー供給源としての脂肪組織
  2)アドレナリン受容体を介した脂肪細胞の脂肪分解カスケード
  3)HSLの移行作用とそれを支えるタンパク質群
  4)脂肪分解反応を調節する酵素
  5)脂肪分解反応とカルシウムの役割
 5.運動トレーニングは脂肪細胞の脂肪分解反応を強める
  1)運動トレーニングとβ-アドレナリン受容体
  2)運動トレーニングと三量体Gタンパク質
  3)運動トレーニングと細胞内cAMPとPKA
  4)脂肪滴表層のPLINとCGI-58の運動による変化
  5)運動トレーニングと細胞内カルシウムイオンの役割
 6.運動トレーニングによる脂肪分解反応の増強はin vivoに反映されない?
  1)in vivoとin vitroにおける白色脂肪細胞の脂肪分解反応
  2)運動トレーニングによる脂肪分解反応の亢進は一過性の運動効果の残存である?
  3)肥満者のin vivoとin vitroにおける脂肪分解反応
 7.脂肪分解反応には解剖学的部位差と動物種差がある
  1)脂肪細胞の脂肪分解反応における解剖学的部位差
  2)インスリンによる脂肪分解抑制作用と解剖学的部位差
  3)脂肪細胞の脂肪分解反応における動物種差
 8.骨格筋の脂肪酸代謝と運動
  1)骨格筋の脂肪酸の酸化経路
  2)骨格筋の脂肪滴のTGとその分解機構
  3)AMPKによるHSL活性の抑制作用
  4)AMPKによる脂肪酸の酸化と取り込み作用への影響
  5)運動トレーニングによるミトコンドリアの増加とAMPKとの関係

第3章 内分泌器官としての脂肪組織:アディポカインの分泌
 1.レプチンの発見
  1)アディポカインとは
  2)レプチン発見の経緯
  3)レプチンの作用
  4)レプチンによる細胞内シグナル伝達
  5)肥満とレプチン
 2.運動とレプチン
  1)レプチンに影響を与える因子
  2)レプチンに対する急性運動の影響
  3)レプチンに対する運動トレーニングの影響
  4)レプチンに対するレジスタンス運動の影響
 3.肥満・糖尿病とインスリン抵抗性
  1)肥満者は増加している
  2)肥満とメタボリックシンドローム
  3)糖尿病とインスリン抵抗性
  4)運動は糖尿病を予防するか-疫学的調査より
 4.インスリン抵抗性とアディポカイン-脂肪組織の炎症反応-
  1)インスリンによる糖取り込みのメカニズム
  2)脂肪組織の炎症反応とアディポカイン
  3)代表的な炎症性アディポカイン
 5.脂肪組織の炎症反応は運動で軽減するか
  1)TNF-α
  2)MCP-1
  3)脂肪組織へのマクロファージ浸潤に対する運動トレーニングの影響
 6.善玉アディポカイン:アディポネクチン
  1)アディポネクチンとは
  2)アディポネクチンの機能
  3)アディポネクチンと肥満
  4)アディポネクチンと運動
 7.インターロイキン-6とプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター
  1)IL-6の機能と肥満
  2)運動とIL-6
  3)PAI-1の機能と肥満
  4)PAI-1と運動
 8.動脈硬化と運動
  1)動脈硬化症と肥満・糖尿病
  2)粥状動脈硬化発症のメカニズムと糖尿病との関連
  3)動脈硬化とアディポカイン
  4)動脈硬化と運動
 9.アディポカインに対する運動の影響は脂肪組織量減少によるものか
  1)脂肪細胞の肥大とアディポカイン
  2)アディポカインに対する運動の影響は脂肪組織量減少によるものか
  3)運動トレーニングの効果として脂肪組織量減少以外に何が考えられるか

第4章 新しい展開:時計遺伝子と脂肪組織
 1.脂肪組織はサーカディアンリズムをもっている
  1)末梢組織の体内時計
  2)サーカディアンリズムの分子機構
  3)ツァイトゲーバー
  4)脂質代謝と体内時計
  5)脂肪組織のサーカディアンリズム
 2.脂肪組織のサーカディアンリズムと生活習慣病
  1)時計遺伝子改変動物と肥満
  2)代謝の変化がサーカディアンリズムに与える影響
  3)遺伝的要因と肥満,体重,体内時計の関係
 3.食事や運動と脂肪組織の時計遺伝子

付録1 用語解説
付録2 略語集

序文

著者一覧

井澤 鉄也,石田 均,石橋 義永,大野 秀樹,小笠原 準悦,木崎 節子,駒林 隆夫,櫻井 拓也,炭谷 由計,野村 幸子,芳賀 脩光3