多関節運動学入門
【第2版】
  • 編集:
    山下 謙智(運動科学研究所)
  • 定価:
    3,080円(税込)
  • 頁:
    256ページ
  • 判型:
    A5判
  • 発行年月:
    2012年5月
  • ISBN:
    978-4-905168-17-1

内容

 ヒトの日常生活における動作・動きのほとんどが,複数の運動器が関与する多関節運動であり,その遂行には運動器官の精巧な構造と機能および制御が不可欠である。
 本書では,この複雑な多関節運動について,筋電図学的手法を用いた解析などを,多くの図表を用いてわかりやすく解説した。
 今回の改訂では,姿勢調節や高齢者の転倒に関連する先行随伴性姿勢調節に加えて,糖尿病性末梢神経障害患者における歩行について取り上げ,歩容や歩行の運動療法としての可能性についても言及した。
 身体運動学,キネシオロジー,バイオメカニクス,運動生理学の分野の人はもちろん,理学療法士,スポーツインストラクターなどヒトの動きに関心のある方々には必携の書である。

目次

第1章 人間と身体運動
1.人体の概観
 1)車と比較すると
 2)運動器とは
 3)骨格の形成
 4)解剖学的姿勢
 5)運動の種類
2.骨格筋
 1)人体の筋
 2)骨格筋の分類と分布
 3)複数頭ある骨格筋
 4)四肢を走行する二関節筋
 5)二関節筋の長さと太さ
 6)特異な骨格筋
3.関 節
 1)関節の構造および関節の種類
 2)上肢と躯幹の連結
 3)肘における複関節の形成
4.骨
 1)骨の構造と役割
 2)骨の数と分布
 3)脊柱の弯曲
 4)骨の成長と退化
5.運動に関係する感覚器
 1)感覚の受容
 2)感覚器の種類と働き
 3)筋・腱および関節の感覚器
 4)視 覚
6.神経系の構成と役割
 1)神経細胞
 2)神経組織の種類と機能
 3)神経と脊柱

第2章 関節運動の成立
1.関節運動の原動力
 1)関節運動にいたるまで
 2)筋収縮機序(滑走説)
 3)神経刺激と筋の収縮張力
 4)速筋線維と遅筋線維の特性
2.関節の回転運動
 1)筋の起始・停止と作用
 2)骨格筋の複数作用
 3)筋の収縮とてこ作用
 4)力の発揮様式
 5)関節運動の分解と合成
3.多関節運動と二関節筋について
 1)骨格筋の分類
 2)一関節筋と異なった主動筋-拮抗筋関係
4.二関節筋活動の機能例
 1)力と放電量との関係
 2)力発揮と二関節筋の放電量との関係
 3)サッカーのキック動作の場合
 4)二関節筋の放電様相からみた多関節運動の解析
 5)スクワットから行う立ち上がり動作

第3章 身体運動の発現
1.運動発現の源
 1)運動と脳の密接な関係
 2)脳内での準備過程
 3)「わかる」と「できる」
2.信号の流れ
 1)刺激から反応までのプロセス
 2)脳から筋までの流れ
 3)興奮の伝搬
3.神経・筋系
 1)運動単位
 2)運動ニューロンの収束と発散
 3)遠心路
 4)身体運動が起こるまでの時間的「ずれ」
 5)力の伝達機能

第4章 身体運動の制御
1.生体の制御
 1)興奮と抑制
 2)抑制作用の必要性
 3)全身性調節
 4)基本制御
 5)中枢神経の階層構造
2.筋収縮にかかわる制御
 1)収縮張力の制御
 2)筋線維タイプと制御
 3)相反性神経支配
 4)相拮抗する二関節筋の「相互抑制」現象
 5)自原抑制
 6)エネルギーコストの節約と運動制御の正確性
 7)運動単位からみた特徴
3.運動反射
 1)運動反射とは
 2)反射の経路
4.さまざまな運動反射
 1)防御反射(侵害受容反射)
 2)緊張性頚反射

第5章 随意・多関節運動の制御
1.随意運動の制御
 1)随意運動とは
 2)運動プログラム
2.多関節運動の自動化
 1)自動化の仕組み
 2)シナジーとは
3.運動と姿勢調節
 1)二足立位の平衡維持
 2)運動と姿勢の協調作用
 3)意図した運動に先行する姿勢制御
 4)身体の平衡障害
4.先行随伴性姿勢調節と多関節運動
 1)姿勢調節と多関節運動成果との関係
 2)熟練との関係
5.中枢機構と信号の流れ
 1)中枢制御
 2)信号の流れおよび関与部位
 3)「運動」と「姿勢」両要素の関係

第6章 多関節で巧妙な運動
1.複雑な運動の誕生
 1)他の動物とは異なった身体
 2)運動器構造の多様性
 3)神経・筋系の多機能性
 4)「複雑さ」に寄与する中枢神経系の発達
2.多関節運動の特徴
 1)リミティングファクター
 2)最大努力時の最大以下活動
 3)期待しない収縮に対する「補償作用」
3.運動の獲得と熟練
 1)成熟と熟練
 2)意図と成果
 3)筋活動の精錬化
4.多関節運動のパフォーマンス
 1)運動成果とは
 2)ドラムセオリー
 3)中枢性反応時間の要因分割
 4)「はじめの1歩」を早める要因
 5)運動発現の前提条件
5.多機能性と動作依存性
 1)骨格筋の多機能性
 2)単一筋の複数神経枝支配
 3)神経-筋系コンパートメント(骨格筋の局在性)
 4)動作依存性活動
 5)運動単位の随意コントロール

第7章 初期重心位置と先行随伴性姿勢調節
1.水平方向の初期重心位置と先行随伴性姿勢調節
 1)運動の開始と姿勢調節
 2)水平方向の初期重心位置と動作時間
 3)水平方向の初期重心位置と筋活動
 4)1歩踏み出し動作における運動脚と支持脚の機能的な違い
 5)運動開始時の重心位置と見越し前方推力および見越し支持脚方向推力
 6)前脛骨筋の筋活動と見越し前方推力および支持脚方向への見越し推力
 7)先行随伴性姿勢調節と触覚および筋腱固有受容器
 8)縫工筋および中殿筋の筋活動と動作時間
2.矢状方向の初期重心位置と先行随伴性姿勢調節
 1)矢状方向の初期重心位置に応じた見越し筋活動の様相
 2)矢状方向の初期重心位置に応じた動作時間および床反力データの変化
 3)見越し筋活動,床反力データおよび動作時間との相互関係
3.矢状方向および水平方向の初期重心位置と先行随伴性姿勢調節
 1)静的姿勢調節と動的姿勢調節
 2)実験方法
 3)運動開始前の初期重心位置に応じた見越し筋活動の様相
 4)初期重心位置に応じた見越し局面における矢状および水平方向の床反力データの変化
 5)初期重心位置の変化が動作時間に及ぼす影響
 6)見越し筋活動,床反力データおよび動作時間との相互関係
 7)1歩踏み出し動作における見越し活動の意義
 8)先行随伴性姿勢調節とパフォーマンス増大との関連

第8章 体性感覚と運動に付随する姿勢調節
1.体性感覚情報と姿勢反射
 1)感覚情報の入力が引き起こす姿勢反射
 2)筋紡錘とゴルジ腱器官
 3)伸張反射
 4)Ib反射
 5)α-γ連関
 6)伸張反射の上位中枢からの制御
 7)荷重受容体と運動および姿勢調節との関係
2.姿勢制御と身体図式
 1)姿勢制御と身体図式
 2)宇宙空間での姿勢調節
 3)宇宙空間での先行随伴性姿勢調節の適応
3.平衡感覚と体性感覚
 1)平衡感覚を感知する前庭器官と機能検査
 2)前庭感覚と他の感覚とのかかわり
4.振動刺激と姿勢制御
 1)振動刺激が感覚情報に与える影響
 2)振動刺激に伴う姿勢反応
 3)頚筋への振動刺激
 4)足底への振動刺激が立位姿勢に及ぼす影響
 5)種々の感覚情報の統合
 6)ダイナミックな運動中の振動刺激
 7)姿勢平衡の安定性と振動効果
 8)先行随伴性姿勢調節における振動効果
 9)振動刺激が起こす姿勢平衡の不安定性増加
 10)平衡の不安定性と先行随伴性姿勢調節
 11)振動刺激が運動中のパフォーマンスに及ぼす影響
5.運動中の姿勢平衡の安定に貢献する指触覚
 1)手掌部の触覚受容器
 2)指尖端部からの触覚情報と立位時の姿勢平衡
 3)ダイナミックな運動開始における姿勢平衡と指からの触覚情報
6.体性感覚が先行随伴性姿勢調節に及ぼす影響
 1)フィードフォワード性姿勢調節に及ぼす振動刺激による錯覚効果
 2)フィードフォワード性姿勢調節における振動効果に及ぼす触覚情報の影響

第9章 身体の機能低下と動的姿勢調節の変化
1.加齢と動的姿勢調節
 1)高齢者の転倒と左右水平方向の不安定性との関係
 2)高齢者の転倒と先行随伴性姿勢調節発現との関係
 3)歩行時の前方ステップ速度と左右水平方向の先行随伴性姿勢調節との関係
 4)加齢に伴う機能低下と先行随伴性姿勢調節の減衰
2.加齢による筋機能低下を防ぐ
 1)レジスタンスエクササイズとサイズの原理
 2)レジスタンスエクササイズにおける伸張性筋収縮の重要性
 3)伸張性筋収縮における速筋線維の選択的動員
 4)伸張性筋収縮に付随する筋損傷
 5)伸張性筋収縮を強調したレジスタンスエクササイズの導入と限界
3.筋疲労と動的姿勢調節
 1)筋収縮持続中の筋疲労に対する戦略
 2)姿勢筋疲労と先行随伴性姿勢調節の変化
 3)姿勢筋疲労と姿勢共同筋
 4)姿勢筋の代謝動態の推測

第10章 歩行運動-糖尿病性末梢神経障害患者における歩行-
1.糖尿病性末梢神経障害の発症と進行
2.糖尿病性末梢神経障害患者の歩行の特徴
 1)歩行分析
 2)高齢者の歩容
 3)糖尿病性末梢神経障害患者の歩容
 4)糖尿病性末梢神経障害患者の歩行中の足圧異常
 5)糖尿病性末梢神経障害患者の歩行中の筋電図様相
 6)糖尿病性末梢神経障害患者における歩行中の下腿筋活動と足底円蓋の緊張
 7)糖尿病性末梢神経障害患者特有の神経障害の部位
 8)糖尿病性末梢神経障害患者の運動神経の障害
3.歩行の運動療法としての可能性
 1)患者の歩行分析と歩容改善
 2)歩行と足部の血行動態

序文

著者一覧

伊東 太郎,東 隆史,徳原 康彦,山下 謙智