頸部障害の理学療法マネージメント
  • 著:
    Gwendolen Jull,Michele Sterling,Debrorah Falla,Julia Treleaven,Shaun O’Leary
  • 監訳:
    新田 收(首都大学東京大学院人間健康科学研究科)
    中丸 宏二(寺嶋整形外科医院リハビリテーション科)
  • 定価:
    3,850円(税込)
  • 頁:
    204ページ
  • 判型:
    B5判
  • 発行年月:
    2009年6月
  • ISBN:
    978-4-931411-82-1

内容

 近年,頸部痛の発生頻度は腰痛に肩を並べるほどになり,21世紀に入る頃から頸部痛による経済的あるいは社会的負担は増加の傾向を辿っている。頸部痛が起こる要因はさまざまで,職場の技術が進歩したために基本的な業務内容が変化したことや,全世界規模で自動車が激増している実態,情報テクノロジーやコンピューターの急激な発展に伴い,何時間も同じ姿勢で椅子に座る時間が長くなったことなどが考えられる。
 頸部痛は,確固とした科学の一専門分野として,現在急速に発展している。1980~1990年代には,単に腰痛の専門知識を当てはめて,そのまま頸部の筋骨格系障害の診断や治療に応用しただけの文献が少なくなかったが,最近の研究では,それが実に不適切なやり方であったということが判明している。頸部,腰部それぞれが担う機能的役割は異なり,頸椎は解剖学的・生体力学的に腰椎とはまったく趣を異にしている。
 頸部の筋骨格系障害の診断や管理は,現在新たな方向へ進んでいる。従来は病態解剖学的な診断が中心であったが,頸部痛患者の80%で明確な病態解剖学的原因が容易に特定できないことから,現在では障害の過程や病態生理学的なアプローチをする方向へと徐々に移行している。また,ここ数十年間に疼痛のメカニズムに関する知識が飛躍的に前進し,動物実験と人体での疼痛発現の格差を技術が補うようになった。筋電図の技術が発達し,頸部筋群や運動制御をより総合的に検査できるようになった。頸部痛を完全に理解するには依然として多くの調査や研究が必要であるが,過去20年間の急速な発展で頸部痛に対する理解が深まり,管理方法の基礎ができあがったといえるだろう。
 本書には頸部障害の治療に必要な応用科学,評価,リハビリテーションプロトコールが提示してある。研究はまだ続いており,この先10年間でこの分野が発展することを大いに期待する。
(序文より抜粋)

目次

第1部 序 論
第1章 序 論

第2部 臨床科学の応用
第2章 頸部痛における感覚徴候
 頸椎の局部的痛覚過敏―末梢侵害受容性の疼痛か
 関連痛
 全身性の感覚過敏―中枢神経系の疼痛処理機構が増幅する根拠
 むち打ち損傷後に生じる感覚障害
 頸部痛における神経障害の特徴
 感覚系の変化がアウトカムに及ぼす影響
 頸部痛患者の評価への示唆
 頸部痛に対する管理への示唆
第3章 頸部の構造と機能
 頸椎の構造と機能
 頸椎の筋群
 頸椎の姿勢と運動の制御
 頸椎の神経脈管構造
 頸椎と肩甲帯の関係
 頸椎と顎関節部の関係
第4章 頸部痛に伴う頸部筋機能の変化
 筋力と持久力の変化
 頸部の運動制御の変化
 頸部筋の末梢適応
 頸部痛による神経筋適応のメカニズム
 頸部痛患者のリハビリテーションに対する示唆
第5章 頸椎と感覚運動の制御
 頸部の機械的受容器の形態学
 中枢との連絡
 頸部体性感覚入力の人為的な障害
 感覚運動制御が障害される機序
 頸部体性感覚入力が変化する原因
第6章 頸部障害にみられる姿勢安定性,頭部・眼球運動制御の障害
 めまい
 固有感覚,眼球運動制御,姿勢安定性の測定
 固有感覚,眼球運動制御,姿勢安定性の障害に対する管理方法
第7章 頸部痛の心理的および心理社会的要因
 心理的要因と慢性頸部痛
 頸部痛が急性から慢性へ移行する際の心理的要因
 急性心的外傷後ストレス反応がむち打ち損傷に及ぼす影響
 身体的要因と心理的要因の関連性
 頸部痛における心理社会的要因
 頸部痛の評価と管理への示唆

第3部 むち打ち関連障害,頭痛,頸腕痛
第8章 むち打ち関連障害
 むち打ち損傷の病態
 むち打ち損傷の分類
 むち打ち関連障害の身体的・心理的特徴
 むち打ち損傷後のアウトカム予測
 むち打ち損傷評価への示唆
 治療への示唆
第9章 頸性頭痛の鑑別診断
 頸性頭痛の臨床診断
 鑑別診断における身体的検査
第10章 頸腕痛の鑑別診断
 頸腕痛の機序
 頸腕痛の臨床鑑別診断
 頸腕痛の保存的管理

第4部 頸部障害に対する治療法
第11章 臨床的評価:問診と病歴
 “レッドフラッグ”
 質問票:アウトカムと診断の指標
 コミュニケーション
 現病歴
 主症状
 症状の変化
 一般的な注意点
 問診終了時の臨床推論
第12章 臨床的評価:頸部の身体的検査
 立位検査
 座位検査
 背臥位検査
 腹臥位検査
 背臥位検査の続き
 四つ這い位検査
 感覚運動の制御障害の評価
第13章 頸部障害に対する管理の原則
 患 者
 疼痛の管理
 関節系の管理
 神経系の管理
 筋系の管理
 感覚運動制御障害に対する管理
 仕事および生活実践
 自己管理方法
 アウトカムの評価
第14章 頸部障害に対する治療エクササイズ:診療指針
 筋 系
  第1段階
   頭頸部屈筋群のトレーニング/頸部伸筋群のトレーニング/肩甲骨周囲筋群のトレーニング/脊柱の中間位姿勢の再教育
  第2段階
   リズミカルスタビライゼーションエクササイズ/頸椎伸展運動の制御トレーニング/上肢の運動と負荷を利用した肩甲骨の制御トレーニング
  第3段階
   感覚運動の制御障害に対するリハビリテーション

第5部 結 論
第15章 将来の方向性
 理学療法に反応する患者としない患者の識別
 治療の生理学的効果
 介入方法
 複数の専門家による管理

序文

訳者一覧

相澤 純也,小山 貴之,バーネット 文子