ここまでわかった燃える褐色脂肪の不思議
  • 編集:
    斉藤 昌之(北海道大学)
    大野 秀樹(杏林大学医学部)
  • 定価:
    2,860円(税込)
  • 頁:
    160ページ
  • 判型:
    B5判
  • 発行年月:
    2013年6月
  • ISBN:
    978-4-905168-25-6

内容

 「褐色脂肪」については従来の定説が覆され,最近,ホットな注目を集めている。多くの情報の中には,科学的根拠のないものも多くみられ,誤解を招く結果ともなっている。
 このような現状を踏まえ,本書では,褐色脂肪について,最近発見された知見や,関心が高い体温や体脂肪の調節との関係を中心に,科学的・医学的事実を紹介した。
 本書が,褐色脂肪そのものに加えて,体温調節や脂肪組織,肥満,生活習慣病などに関心をもっている方々に役に立つことを願うものである。

目次

第1章 褐色脂肪組織とは
1.古くて新しい脂肪組織・褐色脂肪
 1)褐色脂肪は 460年前に見出されていた
 2)褐色脂肪の形と豊富な血管・神経
 3)熱産生部位としての褐色脂肪
2.褐色脂肪での熱産生
 1)ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役させる分子 UCP
 2)UCPは陰イオンキャリアである
 3)褐色脂肪での熱産生はUCP1の働きによる
 4)熱産生の主なエネルギー源は脂肪酸である
3.褐色脂肪熱産生の調節
 1)UCP1の活性は通常抑制されており脂肪酸によって解除される
 2)脂肪酸は交感神経-βアドレナリン受容体系によってリパーゼが活性化されて生じる
 3)交感神経-褐色脂肪の活性化を確認する方法
4.褐色脂肪の生理的役割
 1)褐色脂肪は体温調節に役立つ
 2)病的発熱に寄与する
 3)食後の熱産生にも寄与する
 4)エネルギー消費の自動調節に寄与している
5.褐色脂肪の異常と疾病
 1)褐色脂肪の活性低下により低体温となり肥満するマウス
 2)ヒトでも褐色脂肪が肥満にかかわっている
 3)褐色脂肪はメタボリックシンドロームへどのようにかかわるか
 4)いろいろな疾病で褐色脂肪はどのように変わるのか
6.褐色脂肪を活性化して肥満を予防
 1)寒冷刺激を続けると体脂肪が減る
 2)β3アドレナリン受容体を薬で刺激する
 3)褐色脂肪を活性化する簡単な方法はあるか

第2章 褐色脂肪細胞の起源,増殖,分化
1.褐色脂肪細胞の起源
 1)褐色脂肪組織の形成と生体における役割
 2)褐色脂肪細胞と骨格筋細胞の意外な共通性
 3)褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の由来は違うのか
2.褐色脂肪細胞の分化と増殖
 1)古典的な褐色脂肪細胞の分化を誘導する分子
 2)白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化を誘導する分子
 3)褐色脂肪細胞の増殖能とその調節分子の振る舞い
3.褐色脂肪細胞の死
 1)褐色脂肪細胞死のプログラミング
 2)褐色脂肪細胞が死を逃れる方法

第3章 脳が調節する褐色脂肪組織の熱産生
1.褐色脂肪組織の熱産生は無意識に起こる
2.褐色脂肪組織の熱産生の司令塔,体温調節中枢
3.脳から褐色脂肪組織への指令を伝達する交感神経
4.体温調節中枢から交感神経への指令伝達をになう交感神経プレモーターニューロン
5.交感神経プレモーターニューロンを活性化する視床下部背内側部
6.体温を一定に保つ 2つの制御機構:フィードバックとフィードフォワード
7.皮膚からの温度情報を体温調節中枢へ伝える神経経路
8.感染性発熱
9.肥満を防ぐための褐色脂肪組織熱産生
10.糖や酸素の供給状態に応じた褐色脂肪組織熱産生の調節

第4章 いろいろな動物の褐色脂肪組織とその役割
1.褐色脂肪はどこに,どのくらいあるのか
2.出生時の体温維持と褐色脂肪
 1)早成性の新生仔と褐色脂肪:ウシ,ヒツジ,モルモット
 2)晩成性の新生仔と褐色脂肪:ラット,マウス,ネコ
 3)未熟な新生仔と褐色脂肪:ハムスター
3.冬眠から覚めるときの体温上昇と褐色脂肪
 1)リスやハムスター
 2)ハリネズミ
 3)コウモリ
 4)キツネザル
 5)ク マ
4.いろいろな動物の褐色脂肪
 1)胎児の褐色脂肪:ヒツジを用いた珍しい研究
 2)海棲哺乳類の褐色脂肪:流氷上で生まれるタテゴトアザラシ
 3)褐色脂肪をもたない哺乳類?:カモノハシとカンガルー
 4)ブタは哺乳類なのにUCP1遺伝子をもたない
 5)鳥に褐色脂肪はあるか

第5章 ヒトの褐色脂肪とその機能
1.ヒトの褐色脂肪の再発見
 1)ヒト成人には褐色脂肪はない?
 2)ヒト褐色脂肪の再発見
 3)褐色脂肪の存在を成人で証明する
2.褐色脂肪の検出・評価法
 1)標準的方法:寒冷刺激を与えてからのFDG-PET/CT
 2)寒冷刺激を与えないFDG-PET/CTではどう変化するか
 3)ほかのトレーサーを用いたPET/CTの試み
 4)脂肪組織の画像診断法の応用:X線CTとMRI
 5)サーモグラフィーによる評価
3.FDG-PET/CTで検出できない褐色脂肪細胞
 1)FDG-PET/CTでの検出の有無と褐色脂肪組織/細胞の有無は同義ではない
 2)非検出者でも褐色脂肪細胞は存在する
 3)検出限界以下でも褐色脂肪細胞は活性化する
4.ヒト褐色脂肪の活性・量と影響因子
 1)年齢:歳をとると減る
 2)性:男女差はなさそう
 3)季節:冬になると増える
 4)その他の因子:地域,人種など
5.ヒト褐色脂肪のエネルギー消費活性
 1)発熱機能を確認
 2)寒冷誘導熱産生には褐色脂肪が大切である
 3)食後熱産生の一部にも褐色脂肪が寄与する
6.肥満と褐色脂肪
 1)肥満度は褐色脂肪の活性と逆相関する
 2)加齢に伴う肥満は褐色脂肪の低下が原因
7.ヒト褐色脂肪組織の活性化や増量による肥満予防の試み
 1)寒冷刺激を毎日続けると褐色脂肪が増える
 2)寒冷の代わりに香辛料成分で温度受容体(TRP)チャネルを刺激する

第6章 褐色脂肪組織と食事と運動
1.褐色脂肪を活性化・増量して肥満を防ぐには?
 1)エネルギーの消費形態
 2)褐色脂肪の活性化と増量
2.食事摂取と褐色脂肪組織(食事誘導熱産生)
 1)食品摂取に伴う体熱産生
 2)食事の摂取量,カロリー総量
 3)食事の回数,咀嚼と食事誘導熱産生
 4)タンパク質
 5)糖 質
 6)脂 肪
3.香辛料,嗅覚・味覚刺激で美味しく食べることは BAT誘導に有効である
 1)食品の美味しさと感覚刺激
 2)香辛料と感覚刺激
4.運動や寒冷刺激以外の生活環境は有効か?

【Topics】
1.UCP遺伝子の転写調節
2.骨の髄から温まる:骨髄の褐色脂肪細胞
3.ヒト iPS細胞/ ES細胞から褐色脂肪細胞をつくる
4.マクロファージは褐色脂肪組織に燃料を補給する
5.ストレスで起こる褐色脂肪組織の熱産生
6.褐色脂肪組織は安眠をもたらすか
7.UCPファミリーの遺伝子と構造
8.UCPの仲間たち
9.UCPsはヒトの寿命を左右する
10.UCP2は活性酸素を制御する
11.ヒト褐色脂肪組織と一塩基多型
12.漢方薬と褐色脂肪組織
13.TRPチャネルと食品成分
14.噛むことは,BATの活性化をはじめさまざまな効能をもつ
15.アルコール摂取は褐色脂肪組織活性を亢進させるか
16.水泳は褐色脂肪組織のグッド・ストレッサー
17.スペースフライトは褐色脂肪組織を活性化するか
18.楽しく遊んで運動すれば白色脂肪が褐色化する?

序文

著者一覧

斉藤 昌之,小笠原 準悦,井澤 鉄也,大野 秀樹,岡松 優子,佐伯 久美子,木崎 節子,佐藤 章悟,大河原 知水,中村 和弘,櫻井 拓也,石橋 義永,野口 いづみ,長澤 純一,鈴木 健二,芳賀 脩光,米代 武司,斎藤 大蔵,渡辺 憲治,河田 照雄,本田 梓,本田 正樹,白土 健,今泉 和彦,上野 伸正,大石 修司