筋機能改善の理学療法とそのメカニズム
理学療法の科学的基礎を求めて 【第3版】
  • 編集:
    望月 久(文京学院大学保健医療技術学部)
    山田 茂(実践女子大学生活科学部)
  • 定価:
    3,850円(税込)
  • 頁:
    376ページ
  • 判型:
    A5判
  • 発行年月:
    2014年5月
  • ISBN:
    978-4-905168-30-0

内容

 臨床の場で理学療法を実施していて思うことは,筋力増強として実施している運動が生体に対してどのようなメカニズムで作用しているのか,運動の負荷量はなぜこの程度が適切なのか,筋力はどこまで改善するのかといった素朴な疑問である。これらのことが理解されれば,理学療法を科学的に基礎づけることができ,より効果的な理学療法技術の発展につながる可能性がある。
 本書は,身体運動における骨格筋の重要な機能である筋収縮力の発揮,筋の持久力,伸展性・粘弾性・筋緊張といった筋の性状,筋の痛みに対する理学療法的対応を,運動療法を中心に整理し,理学療法の考え方および理学療法が骨格筋系を構成する組織や筋細胞に作用するメカニズムを探ることを意図している。
 第3版では,骨格筋の機能改善にかかわる現在の到達点をより広い視野で理解し,臨床や研究に役立てることを目的に,神経系の機能や人工筋肉の話題なども取り上げ,これまでの構成を再編した。
(序文より抜粋)

目次

第1部 筋機能改善の理学療法−その考え方と基本アプローチ−
第1章 理学療法における骨格筋の捉え方
 1.理学療法の対象としての骨格筋
 2.骨格筋の諸機能
 3.骨格筋構造と筋構築
 4.骨格筋の発生と再生,および加齢
 5.骨格筋の適応(可塑性)
 6.筋機能改善の理学療法
  6.1.筋力増強の至適刺激
  6.2.筋持久力改善の至適刺激
  6.3.筋の伸張性向上の至適刺激
 7.神経系と骨格筋
第2章 骨格筋の構造と機能
 1.骨格筋の構造
 2.筋収縮のメカニズム
 3.骨格筋の筋線維タイプ
 4.筋構築
  4.1.生理学的横断面積
  4.2.筋長・筋線維長
  4.3.羽状角
  4.4.主な骨格筋の筋構築特性
 5.骨格筋収縮の力学的特性
  5.1.骨格筋の長さ−張力関係
  5.2.骨格筋の張力−速度関係
 6.関節構造と関節トルク
第3章 筋伸張性の理学療法 −関節可動域制限改善の理学療法 −
 1.骨格筋の伸張性の制御機構
  1.1.骨格筋の伸張性に関する力学的モデル
  1.2.筋線維の伸張性
  1.3.筋膜の伸張性
 2.不動による骨格筋の変化
  2.1.骨格筋の筋長の変化
  2.2.骨格筋の伸張性の変化
 3.不動による筋線維と筋膜の変化
  3.1.筋線維の変化
  3.2.筋膜の変化
 4.筋性拘縮に対する治療戦略
  4.1.筋内膜におけるコラーゲン線維の配列変化に対する治療介入効果
  4.2.骨格筋の線維化の分子機構を踏まえた新たな治療戦略の可能性
第4章 筋力改善の理学療法
 1.筋力発揮のメカニズム
 2.非荷重による骨格筋の変化
 3.筋力改善の理学療法
  3.1.荷重の効果
  3.2.ストレッチの効果
  3.3.電気刺激の効果
  3.4.温熱刺激の効果
 4.考慮すべき要因
  4.1.年 齢
  4.2.性 差
  4.3.部位差
  4.4.過用性筋力低下
第5章 高齢者の筋力改善
 1.高齢者と骨格筋の萎縮
 2.サルコペニア
  2.1.運動単位
  2.2.筋細胞横断面積
  2.3.興奮収縮連関
 3.骨格筋萎縮と肥大
  3.1.骨格筋の萎縮
  3.2.骨格筋の肥大
 4.サルコペニア肥満
 5.高齢者に対する筋力トレーニング
 6.新しい筋力トレーニング方法
第6章 持久力改善の理学療法
 1.筋持久力に関与する要因
  1.1.筋に貯蔵されているエネルギー源
  1.2.筋(筋ミトコンドリア)への酸素運搬能力
  1.3.筋の酸化系代謝能力(酸素利用能力)
  1.4.アンジオテンシン変換酵素遺伝子多型
  1.5.神経系の機能
 2.持久力の評価
  2.1.全身持久力の評価
  2.2.筋持久力の評価
 3.筋持久力と筋ミトコンドリア
  3.1.筋線維タイプとミトコンドリアの分布
  3.2.ミトコンドリアDNA
  3.3.運動と廃用
 4.臨床にみる筋持久力障害と改善の鍵
  4.1.脳血管障害
  4.2.脊髄損傷不全麻痺
  4.3.神経・筋疾患
  4.4.慢性閉塞性呼吸障害
  4.5.高齢者
  4.6.生活習慣病
 5.筋持久力と全身持久力
  5.1.持久力トレーニング
  5.2.高地・低酸素トレーニング
  5.3.息切れに対する呼吸筋トレーニング
  5.4.インターバル・トレーニング
 6.運動後の筋持久力改善と筋疲労回復のための予防的管理
  6.1.軽運動
  6.2.ストレッチング
  6.3.寒冷療法
  6.4.マッサージ
第7章 筋の痛みに対する理学療法
 1.痛みとは
  1.1.痛みの種類
  1.2.痛みの受容器
  1.3.急性痛と慢性痛
  1.4.痛みの評価
  1.5.痛みの治療
 2.筋・筋膜痛
  2.1.筋筋膜性疼痛症候群
  2.2.線維性筋痛症候群
 3.筋筋膜痛に対する治療アプローチ
  3.1.薬物療法,トリガーポイント注射,鍼・乾燥針,物理療法
  3.2.スプレー・アンド・ストレッチ
  3.3.徒手療法

第2部 骨格筋の発生・再生・適応と収縮機構
第8章 骨格筋の発生・再生と病態
 1.配偶子形成
 2.受精と初期発生
 3.骨格筋の形成
 4.細胞の分化
 5.培養系における筋細胞の分化
 6.筋細胞の再生
 7.筋サテライト細胞の活性化機構
  7.1.細胞膜成分スフィンゴミエリン分解の重要性
  7.2.機械的伸展刺激による筋サテライト細胞の活性化
 8.筋分化制御遺伝子MyoDの発見
 9.骨髄にもみつかった筋前駆細胞
 10.筋の再生と筋ジストロフィー
 11.筋ジストロフィーとリハビリテーション
 12.ナンセンス突然変異病を治療できる抗生物質
第9章 筋サテライト細胞・筋幹細胞の挙動と機能
 1.骨格筋肥大・再生と筋サテライト細胞
  1.1.筋サテライト細胞とは
  1.2.筋サテライト細胞の活動開始時期
 2.筋幹細胞のダイナミクスと情報伝達系
  2.1.筋幹細胞のダイナミクス
  2.2.幹細胞の分化と情報伝達系
  第10章 骨格筋の適応
 1.活動量の増加に対する骨格筋の適応
  1.1.慢性的電気刺激に対する骨格筋の適応
  1.2.間欠的電気刺激に対する骨格筋の適応
  1.3.運動に対する骨格筋の適応
  1.4.筋力増強の神経性要素と筋肥大要素
 2.活動量の減少に対する骨格筋の適応
 3.不動による筋長の変化
 4.損傷に対する筋の適応
  4.1.骨格筋の損傷過程
  4.2.骨格筋の修復過程
第11章 機械刺激に対する骨格筋の応答
 1.筋に対する機械刺激とその形態応答
  1.1.重力による筋への張力
  1.2.筋に対する機械刺激は肥大や萎縮抑制を起こす
  1.3.筋の肥大は筋線維の肥大か筋線維の増殖で起こる
  1.4.筋線維の太さは,筋構成タンパク質の合成と分解のバランスにより制御される
 2.機械刺激によるタンパク質合成にかかわる情報伝達経路
  2.1.成長因子 IGF−Iにより引き起こされる情報伝達経路と機械刺激による筋肥大との関係
  2.2.細胞内 Ca 2+濃度の上昇により引き起こされる情報伝達経路と機械刺激による筋肥大との関係
 3.機械刺激とタンパク質分解にかかわる情報伝達経路
  3.1.ユビキチン−プロテアソーム系と筋構成タンパク質分解
  3.2.オートファジー−リソソーム系と筋構成タンパク質分解
 4.筋肥大や萎縮にかかわるその他の役者 −その他の細胞器官や分子の関与
  4.1.筋 核
  4.2.ミオスタチン
  4.3.アミノ酸
  4.4.機械刺激の細胞内への入り口は何か
第12章 筋収縮のメカニズム
 1.筋のすべり運動
  1.1.筋収縮を引き起こすタンパク質とすべり運動
  1.2.クロスブリッジと首ふり説
 2.すべり運動の分子機構
  2.1. ミオシンの構造変化
  2.2. ミオシン1分子のダイナミクスと力学特性
  2.3. ブラウン運動から一方向運動へ
 3.ミオシンの柔軟な運動メカニズム
第13章 人工筋肉の開発と拮抗関節への応用
 1.人工筋肉について
  1.1. 人工筋肉とは何か
  1.2. 人工筋肉の定義と種類
 2.空気圧ゴム人工筋肉
  2.1. 空気圧人工筋肉とは
  2.2. McKibben型人工筋肉
  2.3. 軸方向繊維強化型人工筋肉
 3.軸方向繊維強化型人工筋肉の拮抗関節構造への応用
  3.1. 空気圧人工筋肉の特性と拮抗関節系への適用
 4.人工筋肉のマニピュレータへの適用事例
  4.1. 6自由度ゴム人工筋肉マニピュレータ
  4.2. 人工筋肉とMRブレーキを用いた可変粘弾性機構
  4.3. ゴム人工筋肉アクティブワイヤとロボットハンド

第3部 神経系による骨格筋の制御と脳の可塑性
第14章 筋出力・筋緊張の神経制御
 1.最終出力としての運動ニューロン(運動単位)
  1.1. 運動ニューロンと運動ニューロンプール
  1.2. 運動単位のタイプ分類
  1.3. 運動単位の動員順序 −サイズの原理
 2.脊髄反射機構
  2.1. 反射の考え方
  2.2. 筋紡錘とγ運動系
  2.3. 筋伸張反射
  2.4. α−γ連関
  2.5. 相反性神経支配
 3.筋緊張とその異常
  3.1. 筋緊張
  3.2. 筋緊張低下症
  3.3. 筋緊張亢進症
第15章 随意運動の発現と筋機能
 1.随意運動の最終効果器としての骨格筋
 2.随意運動発現までの神経機構
  2.1. 連合野
  2.2. 運動関連領野
  2.3. 大脳基底核
  2.4. 小 脳
  2.5. 脳幹部
  2.6. 脊 髄
  2.7. 末梢神経
 3.随意運動の障害
  3.1. 運動麻痺
  3.2. 筋出力の低下
  3.3. 筋緊張の異常
  3.4. 協調性の障害
第16章 中枢神経系の再組織化
 1.損傷による脳の変化
  1.1. 脳卒中後の神経細胞死
  1.2. 損傷の二次的影響
 2.回復に伴う脳の変化
  2.1. 皮質機能の再組織化
  2.2. シナプスの変化
 3.適応的可塑性を導くための治療
  3.1. リハビリテーションの必要性
  3.2. 不適切な運動による障害の悪化
  3.3. 適応的可塑性を導く要因
 4.今後の課題
  4.1. 多様な治療法の組み合わせ
  4.2. 機能回復の一般理論構築に向けて
第17章 脳の可塑性と運動
 1.機能回復の背景にあるさまざまなレベルの可塑性
 2.運動機能を回復させる脳の機能的変化
  2.1. 損傷後の機能回復には限界があるか
  2.2. 運動訓練がもたらす機能的な変化
  2.3. 一次運動野損傷後にみられた運動回復の背景にある脳機能の変化
 3.脳の機能的変化の背景にある解剖的変化
  3.1. 一次運動野損傷後の経路の強化
  3.2. 脊髄損傷後の経路の強化
  3.3. 経路を強化することによる機能回復
  3.4. 経路の強化をもたらす微細な解剖的変化
  3.5. 運動が解剖的変化を促進する
 4.運動訓練と遺伝子・タンパク質発現の変化
  4.1. 解剖的変化をもたらす遺伝子発現
  4.2. 運動訓練がもたらす遺伝子発現
 5.機能回復を最大化する運動訓練
  5.1. どのような課題が効果的か
  5.2. どの時期の訓練が効果的か
 6.運動による可塑性の限界と今後の課題
  6.1. 新たな損傷動物モデルの重要性
  6.2. 運動以外の手技との併用

序文

著者一覧

望月 久,本田 祐一郎,沖田 実,山崎 俊明,後藤 勝正,阪井 康友,竹井 仁,大橋 和也,和田 英治,松田 良一,山田 茂,河上 敬介,宮津 真寿美,岩城 光宏,中村 太郎,田中 勵作,工藤 和俊,肥後 範行